前からちょっと気になっていた、宮下奈都さんの「羊と鋼の森」を読みました。
気になっていたというのは、主人公がピアノの調律師ということ、そしてそれがどうして「羊と鋼の森」という題名になるんだろうということ。
こういうちょっとひっかかりのある題名のつけ方って、うまい方法ですよね。
何となく頭の隅に残って、反芻してしまいます。
種明かししてしまえば、ピアノの大部分は木でできていますが、ピアノ線は鋼鉄製、それを叩くハンマーはフェルトでできています。フェルト、つまり羊毛ですね。
物語は、北海道で生まれ育った純朴な駆け出しの調律師が、ピアノの音を探究してその森の中に分け入っていく。
自信が持てなかったり挫折したりを繰り返しながら、調律に訪れた家の双子の姉妹の1人に次第に惹かれ、ピアニストになる夢を持つその人のためのピアノを調律したいと思うようになる過程を描いています。
私自身は、音楽は音でしか表現できないものを表現するし、文学は言葉でしか表現できないものを、絵画は色や形でしか表現できないものを表現するものだと思っているので、言葉で音を表現することには常に虚しさを感じています。
この小説でも、ピアノの音に関する表現が何か観念的な気がして、やや違和感というか、呑み込めない感覚がありました。
作者のプロフィールを見ると、哲学科の卒業とあります。
なるほどね、と思ってしまったり。
でも、そうそう、と共感できるところもあったり、読み進めるうちに引き込んでいく力もあり、結果、面白く読み終えることができました。
調律のことについて非常によく勉強され、丁寧に下調べされているなという印象です。
一読の価値はある作品だと思います。
私も、またこの作者の他の作品も読んでみたいと思います。
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