リヒテルの記憶

4月14日に放映されたNHKの「らららクラシック」で、リヒテル(Sviatoslav Teofilovich Richter 1915~1997)の特集をやっていました。

旧ソ連のピアニストで、父はドイツ人であったためスパイの嫌疑をかけられ銃殺され、リヒテルもなかなか西側への演奏旅行の許可が得られず、「幻のピアニスト」と呼ばれていました。

とにかくすごいピアニストがいるらしいという噂だけが西側には伝わっていたわけですね。

 

初来日は1960年の大阪万博のときで、彼は日本が大変気に入って何回も来日し、62都市も演奏旅行して回ったそうです。私が彼の演奏を聴いたのは2度目ぐらいかと思っていましたが、もっと後だったかもしれません。

浜松と東京の上野文化会館と、同じ来日のときに2回行った記憶があります。

 

リヒテルは曲目を決めないのが好きだったそうで、初めのころはリサイタルの前に聴衆にびっしりとレパートリーが印刷された紙が配られ、きょうはこの中のどれかを弾くというスタイルだったようです。

私が行ったときは、A・B・Cの3通りのプログラムが印刷されていて、この中のどれかを弾くというものでした。

 

そしてあいにく2度目の上野のときも、浜松と同じプログラムに当たってしまったのですが、とても不思議というか謎が残ったんですが、上野のときは浜松のときよりずっと遅いテンポで、まるで違う演奏だったんです。

しかも、なぜか楽譜を見て弾いていました。暗譜に不安があったわけじゃないと思います。

リヒテルは常に新しい挑戦をするのを好んでいたそうですから、2回とも同じ演奏はしたくなかったのかもしれません。

 

とにかくダイナミクスの幅が大きくて迫力のある演奏で、圧倒されました。

体も大きくて手も大きい。

オクターブの連続のところなど、私の手なら5度(ドからソまでとか)の幅ぐらいの手の形だし、離れたキーに飛ぶところも、何せ肩幅も大きいですから、彼にとっては遠いキーなんてないわけです。

思わず「…ずるいよー…」と心の中でつぶやきました。

 

とにかくスケールの大きい怪人のようなピアニストという印象でした。

 

彼は9歳でピアノを始めたそうですが、何と、いきなりショパンのノクターンの1番とホ短調のエチュードから始めたそうです。

私たちから見ると仰天しますが、天才ってこういう人のことを言うんですね。

スタート地点が既に全く違うわけですから、競争にもなりゃしません。

 

「らららクラシック」は、特に専門知識がない人にもクラシック音楽に親しめるようにという番組だと思うのですが、久しぶりに改めてリヒテルの演奏を聴いてみようと思いました。